貝のミラクル―軟体動物の最新学図書館で借りた貝のミラクル』大変面白いです。
これはどんな本か、というのは前書きに書いてあります。ちょっと長めに引用します。

しかし貝類学はコレクターと知的楽しみを共有する形態分類学のみがそのすべてではない。さらに比較解剖、組織学的研究、アイソザイム、DNA、分子へとミクロな方向へとすすみながら解明されなければならない系統学、進化学、貝類の自然生息環境における行動、生態、生活史、飼育や養殖技術による発生学、幼生生態、繁殖の生理機構の解明。(中略)など、考えてみるだけでもきわめて多面的なアプローチがある。

本書は日本の貝類学界のなかで、もっとも先鋭にしてかつ専門的にその分野を長く追及してきた第一線の研究者に、論文にはかけない研究の動機や苦労、個人的な想念、そして自信の研究のPRにとエッセイを書いていただいた。

どうでしょう、想定読者がだれなのか全くわからんのですが、でも面白そうじゃないですか? そして、実際面白いんです。なかでも特に、ウミウシの話がよいのです。
ウミウシは退化した殻すらもっていない、完全に裸の貝です。貝の殻は外敵から身を守るためのものですが、では殻を捨てたウミウシはどうやって身を守るのか? 答えは
敵にとって不味くなる
人間にとっても不味いし、魚などの捕食者にとっても不味い。なぜ不味いのかというと、
ウミウシは不味いものをたべているから
シンプルですね。さらに卵も不味いらしく、捕食するヤツはいないそうです。が、唯一ウミウシの卵を食べるいきものがいて、そいつはやっぱりウミウシの一種、チゴミノウミウシだそうな。こいつは他のウミウシの卵を食べて、自分が不味くなっているのでしょうかね。
さらに、イソギンチャクなど毒のある針(刺胞)をもっている生き物をたべて、その刺胞を自分のものにしてしまい、身を守るために使うウミウシがいるそうです。「盗刺胞」というそうな。クラゲの刺胞を盗む種類もいるそうですよ。
もともと身を守るための刺胞をもった生き物をどうやって食べるのかというと、これが特に工夫があるわけじゃなくて、
痛い思いをして刺されながらも喰う
ウミウシがだんだんかわいそうになってきます。殻をなくしたばかりに、身を守るために不味いものや痛いものを食べて、自分が不味くなったり痛くなったりするわけだ。
ほかにも、「家」をもつ笠貝のはなし、カキが泥に沈まないためにとっている戦略のはなし、すごい小さい貝のはなし、深海にぎっしり住む貝の話、洞窟にざくざくいる貝の話、ウミウシ以外にも、クリオネみたいな殻のない貝の話、などなど盛りだくさん。
ところで「左殻」「右殻」って言葉が出てくるのですが、二枚貝の右左ってどうやって区別するんだろう。