ポレポレ東中野で「人生フルーツ」を観た。

津端修一・英子夫妻の生活を追った静かなドキュメンタリーだ。修一氏は阿佐ヶ谷住宅を手がけた人として名前は知っていたが、自ら手がけた高蔵寺ニュータウンに50年も住み続けていて、しかも自宅庭に雑木林を育て畑を作り、自給自足に近い生活を送っている(繰り返すが、ニュータウンの中で!)ということは今回初めて知った。そして、こんなに可愛らしい老夫婦であることも初めて知った。

90歳の修一さんと87歳の英子さんは、気負わず自然にのんびりと、しかし忙しく暮らしている。畑の世話をし、堆肥を作り、果実を収穫し、障子を張り替え、料理を作り(英子さんが)、一日に10通の手紙を書いては自転車に乗って投函しにゆく(修一さんが)。

50年かけて育てた雑木林であり畑でもある庭にはあちこちに、修一さんが作った黄色い木の札が立ててある。「スダチ ドレッシング用です。」「甘夏 マーマレードに!」「ふきのとう お楽しみに。」そして水盤の横には「小鳥の水浴、どうぞ!」。

夫婦間での呼び名は「おとうさん」「おかあさん」だったり「修たん」「英子さん」だったりする。

この映画は音楽もナレーションも最小限で、基本的にはご夫妻自身の穏やかな言葉で組み立てられている。それによって、彼らの生活の背後にある事情や考え方がだんだんと浮かび上がってくる。

映画の中で修一さんが90歳で(つまり取材中に)手がけた設計プランが出てくる。レイアウトのあちこちに散りばめられた修一さんのコメントのひとつに「できるものから、小さく、コツコツ。ときをためて、ゆっくりと。」とある。

夫妻の生活は素晴らしいけれども、その形をそのまま真似してしまうのでは「ファッション」になってしまうだろうと思う。彼らは「できるものから、小さく、コツコツ。ときをためて、ゆっくりと」の前に、自分自身に対してとても素直で、自分たちにとって何が大事なことなのか良く知っているのだろう。

そしてこの映画自体も、津端夫妻の生き方を伝えたいという強い思いを背景にした上で「できるものから、小さく、コツコツ」と作りあげられたものだと私には感じられた。

人生フルーツ パンフレット