『エターナル・フレイム』
『エターナル・フレイム』(グレッグ・イーガン)を読んだ。『クロックワーク・ロケット』に続く、<直交>三部作の二作目だ。
我々の宇宙とは異なる物理学をもつ世界の、ある惑星。そこで暮らす「人々」は、人類とは大きく異なる生き物だ。
肢を自在に出し入れすることができる。訓練すれば皮膚の隆起をコントロールすることもできる。そうして皮膚をノートのように、黒板のように使うこともできる。
生殖は我々とは全く違う。女が4分裂してそれぞれが子供になる。当然「母」は存在しなくなり、男親が育てることになる。4人の子供は、2組の「双」をなしている。「双」は生まれながらにして「夫婦」のようなもので、通常はこのペアで子供を作る。
『クロックワーク・ロケット』では、この惑星の破滅が迫っていることが予測される。そしてラストでは、破滅を避ける為に、多くの科学者たちが巨大な世代宇宙船〈孤絶〉に乗り込むところで終わっている。この世界の物理法則では、加速を続けると「時間軸に対して垂直」方向に移動することになり、つまり故郷でわずかな時間が経つ間に無限に近い時間を稼ぐことができるのだった。
『エターナル・フレイム』は、その〈孤絶〉上での4世代目の物語だ。グレッグ・イーガンなので、前作に引き続き、隙なく構築されたこの世界の物理に基づいた科学的な議論が展開される(ようだが私には雰囲気しか理解できない)。
物理だけでなく、社会も綿密に作り上げられている。この人々の間では、独特の生殖方法に起因する男女間の差異や権利の問題が常に漂っているのだった。母星でももともと問題があったのだが、〈孤絶〉では食料不足によって新たな問題が加わっている。
これら社会問題の描き方も素晴らしい。この世界の「人々」は、地球上のどんな生き物にも似ていないように思われるのに、人間の問題としてリアルに感じられるのだ。