パイク、船医そしてマティーニ

私はスター・トレックシリーズをちゃんと観たことは一度もなかったが、今年初めて「スター・トレック BEYOND」を観た。とても気に入った。これを機会に「スタートレック教養」を身につけようかなと思ったが、こういうゆるい決意はたいがいそのまま忘れてしまう。しかし今回は折良く、11月からNetflixでスター・トレックのテレビシリーズ全ての順次配信が始まったのだった。

そして今日初めて、「宇宙大作戦」シーズン1最初の作品である「歪んだ楽園(The Cage)」を観た。1964年、テレビシリーズ版が始まる前のパイロット版だそうで、正確にはシーズン1以前の作品ということになるのだろうか。アクションシーン満載の古き良き宇宙冒険活劇的な物を漠然と予測していたが、全く違っていて嬉しい驚きだった。

18年前に消息をたったSSコロンビアからの救難信号を、USSエンタープライズはタロス星から受ける。艦長のクリストファー・パイクは、それを無視して予定通りの進路をとるよう命じた上で、仕事の重圧を船医にこぼす。まず艦長像が私には予想外だった。もっと強く揺るぎなく直情的な、はっきり言って単純なヒーローであることを予想していた。正直なところ、それは古い作品への単なる偏見だった。

そこから続報を得た艦長はエンタープライズの進路をタロス星に変更し、他のクルーと共に降り立つ。そこにはSSコロンビアの墜落を生き延びた人々の集落があった。しかしそれはタロス星人の罠だった。

タロス星人が圧倒的に強く、あまりにも強すぎるためそもそも戦闘にならない。だからアクションシーンはほぼ存在しない。しかし囚われたパイク艦長は精神的な抵抗を試み続ける。強力で異質な異星人とのファーストコンタクトものであるが、しかしタロス星人は絶対的な悪ではない。

今見ても十分な面白いし宇宙ものSFとしてのリアルさ(そもそもリアルではないのだけれども、他に言葉が見つからない)を保っているけれども、こんな地味な話を最初のパイロット版として作ったのは勇気あることではなかったかと想像する。ちゃんと通じるし当たるという確信があったのだろうか。