12月になりました。先生も走る季節ですがわたしはのんびりしています(仕事はしてますよ)。
のんびりしつつ『直観でわかる数学』(岩波書店、畑村洋太郎)を読みました。著者は数学者ではなく、ずっと機械工学をやっていた方のようです。
三角関数、指数・対数、行列、微分積分、虚数と複素数、微分方程式、確率の本質について、数学を道具として駆使してきた工学屋さんが数学を「使う」立場から熱く語っている本です。


計算問題を解けなくはないけれどもいったいその計算でなにをやってるのかわからなくて不満、という人にぴったりはまるように感じました。平易かつ直截的な文章でわかりやすく、楽しく読めましたが、わたしにはちょっと物足りなかった。それは私が計算問題に汲々とした経験がない(というのは計算は嫌いで苦手だからあまりまじめにやらなかったから)からかもしれませんし、教わった教師がよかったからかもしれません。
たとえば微分積分の本質について『「財布からいくら出て行くか?」が微分の概念を、「財布の中にいくらあるか?」が積分の概念を表している』としています。
この例えをきいて「おお!」と感じるか、「たとえは面白いけど、そんなの当たり前では」と思うか、がこの本の印象を左右するかと思います(わたしは後者でした)。
これ以外でも本書の表現はなかなか面白いです。『複素数は一種の圧縮ソフトである』とか、『「郡盲象をなでる」ということわざがある(中略)まさにそれこそが微分方程式の真骨頂なのである』とか、確率において同様に確からしいというのは『トリックである。べつになにか深遠なる真理にもとづいてそうなっているわけではない。そういうことにしておくと都合がいいからそう考えているにすぎない』とか。
各分野について本質を語るほかに、付録があります。
「付録1」はいろいろな数値を楽に暗算するために丸暗記すべきこと、計算方法が書かれています。近似的な計算でもいいじゃないかという部分があってダイナミック(というか乱暴だけど実利的)です。
「付録2」には「知らない」「調べます」は許されない、数値を生み出す努力をせよという論が展開されます。たとえば「鉄の膨張率は?」と訊かれ、「わかりません」「調べます」は禁句だと。ではどうするのか。鉄道のレールについて考えるのです。レールは膨張率を考えて隙間がもうけられています(電車はこの隙間で「がたん、がたん」と揺れるわけです)。ではその長さはどのくらいか。100mってことはないだろう。25mくらいか。隙間はどの程度か。10cmだと脱線するし、1mmだと「がたん」ともいわないだろうから1cm程度か。温度変化は。というふうに自分の知識から推測できるおおまかな数値をあてはめていって、「だいたいこれくらい」という鉄の膨張率をはじき出しなさい。こうやってはじきだした数値はほんとうの膨張率と2倍も違うかもしれませんが、ひとけた違わなければ上等じゃないかと著者は主張します。
著者の経験に基づいた考え方やノウハウが全体につめこまれており、しかも読みやすい本です。題名に惹かれて購入したときの(数学の本質をすっきり明かしてくれるのでは?)という期待からするとちょっと物足りなく感じたものの、総合的には満足できました。
追記:
この後、「一冊で分かる数学」を読みました。目的は似ているものの傾向が異なる本で興味深かったです。