1冊でわかる数学
頭痛がするので会社おやすみです(ふつかよいではないですよ)。
うちでごろごろしながら「1冊でわかる数学」(岩波書店、ティモシー・ガウアーズ)を読了しました。
先日読んだ「直観でわかる数学」は、工学屋さんが数学の本質について熱く語った本でしたが、こちらは数学で重要な考え方は抽象であり物理的な実在は必ずしも考えなくてもよいことを、数学者がクールに語った本です。
少し長くなりますが、本書でもっとも重要とわたしが考える部分を引用します。
チェスにおける黒のキングとはなんだろう? これは奇妙な質問だ。これを考えるためには、少し視点をずらしてみるといい。この質問に対し、チェスボードを指さしながらゲームのルールを説明する以上の答え方があるだろうか?(もちろん今の場合は、とくに黒のキングの役割を詳しく説明することになるだろうが。)黒のキングに関して重要なのは、それが物理的に実在することでもなければ、駒の材質でもなく、チェスというゲームの中でそれが果たす役割なのである。
数学における抽象は、数学的対象に対してこれと同じ態度をとることによって行われる。それを簡潔に言えば「数学的対象は、それが何を為すかによって規定される」ということだ。
本書ではこの「抽象」の考え方に基づいて、まずは自然数と加算・減算について「ゲームのルール」を明らかにしていきます。自然数はいかにも物理的実体がありそうな数ですが、数学的には単にゲームのルールに従うコマにすぎません。その方向で考えていけば負の数・分数・複素数すべてが単にルールに従う数学的対象にすぎないことがわかってきます。
これは「直観でわかる数学」とはきわめて異なる視点です。「直観でわかる数学」ではあくまでも数学的対象の「意味」を問題にしていました。だから「複素数は一種の圧縮ソフトである」などと表現しています。しかし、本書では数学的対象はそもそも「意味」がないモデルである(しかしながら良くできた数学的モデルには現実での使い道がみつかることが多い)としています。
わたしには本書のほうが、「直観でわかる数学」よりも数学の本質をとらえていると感じられました。