『堆塵館』(エドワード・ケアリー)を読んだ。

19世紀のロンドン。街の外れにある巨大な「屑山」の中心には、堆塵館と呼ばれる巨大な屋敷が建っていた。堆塵館に住むアイアマンガー一族は変わった名前を持ち、そして「誕生の品」をひとつ、肌身離さず持っている。それはインクつぼ、トースト立て、ステッキ、茶こしなどのごく普通の品だが、手放すと不運が降りかかると信じられている。物語は、ロザマッドおばさんがドアの取っ手を無くしたところから始まる。

語り手のひとりは、物の「声」をきく能力を持ったクロッド・アイアマンガー。クロッドの誕生の品は浴槽の栓で、常に「ジェームズ・ヘンリー・ヘイワード」と囁き続けている。物は名前をつぶやくのだ。

そしてもう一人の語り手は、孤児院で暮らしていた赤毛の少女、ルーシー・ペナント。ある日彼女はアイアマンガーのひとりに声をかけられて、召使いとして堆塵館へとやってくる。

アイアマンガーたちの歪んだ習慣と堆塵館の不思議な構造、「上の人」と呼ばれる純血アイアマンガーと下にすむ召使いのアイアマンガーたち(彼らにもアイアマンガーの血が流れている)の存在や関係がだんだんと明らかになってくる。

この不思議な世界をしずかに味わう物語かと思いきや、ルーシー・ペナントとクロッドが出会うあたりから雲行きが変わってくる。突然消えた召使いアイアマンガーとその本名。街からやってきた盲目のアイアマンガー。クロッドが祖父から聞かされる一族の秘密。「結集」と嵐に揺さぶられる堆塵館。そして驚きの、しかし明確に続編に繋がるであろうラスト。